スイート・スイート・ラバーズ


「さむ……」
 肩の冷えに目を覚ました悠がうっすらと瞼を上げると、室内はまだ暗く、寝入ってからあまり時間が経っていないことを知った。
 布団に潜り込んだついでに、手っ取り早く隣の体温にくっついて暖を取る。こういう寒い時期は、体温が高く体格のいい彼氏がいると便利だなと思う。
 もぞもぞと収まりのいい位置を探ると、細い悠の体は、大樹の胸にすっぽりと収まった。眠りが深いらしい大樹は身じろぎもしないで寝息を立てている。
 互いに下着を穿いただけの素肌を擦り寄せる。人肌の心地よさは、まだ時々戸惑うけれどだいぶ慣れたところだ。

 一月一日。新年を迎えて数時間が経過した。
 年を跨ぐその瞬間を誰かと過ごしたのは、高校を卒業して以来初めてだ。
 ゲイバレして勘当同然となった実家へは、一度も帰っていない。親しい友人は皆帰省組で、大学三年生の頃に恋人になった大樹もその年は地元へ帰っていった。
 寂しいと、感じていなかったわけではなかった。
 そのことに気づいたのは、今年の年末年始は一緒にいようと、大樹から誘われたときだった。
 この先も、誰かと一緒に年越しを過ごすことはない。家族を持つことのない自分には縁のない賑わい。そう思っていたから、敢えて意識することもしていなかったけれど。
 思ったよりずっとその提案が嬉しくて、直視しないようにしてきた寂しさに気づかされてしまったのだ。
「いいのかよおまえ、正月に帰省しなくて」
 ぶっきらぼうに言ってしまった悠の前で、まるで気にしない様子で携帯をいじりながら大樹は笑った。
「どうせ次の週の成人式で帰りますもん。だいたい帰ったところで友達と遊び歩くばっかりの穀潰し、特に歓迎もされませんしね」
 自分と過ごすためにわざわざ帰省を取り止めたわけではないと知って、ひっそりと安堵する。
 大樹をこちら側に引き込んでしまったことについて、大樹本人へも、その家族に対しても、罪悪感は未だ止まない。せめて大樹には、自分よりも家族を優先して大事にしてほしい。
「じゃあ……今年はおまえんちで過ごすか」
 今年だけだから、と内心で自分に言い訳しながら悠は頷いた。来年はちゃんと、大樹を家族にお返しするから。

 けれど、一人で過ごすのが当然だと思っていた時間を好きな人と共に過ごして、悠は思いがけない幸福感に手放しがたさを覚えていた。
 年越しの瞬間、二人は体を繋いでいた。繋がったまま笑い合って、新年の挨拶を交わした。「姫始めって何だっけ」などとふざけてネット検索してみたりして、その後も寝落ちるまで抱き合った。
 大樹と、少しも離れたくない。
 気づきもしなかった寂しさが、大樹によって埋められていく。失ってしまったら、きっともう元には戻れない。埋められていた穴の大きさに、一人では耐えられない。
「大樹……」
 再会できていなかったら、を考えられないほど、悠にとっての大樹の存在が大きくなっていて。
「……好きだ」
 いつまでも一緒にいられることを、願ってしまう。
 それはもしかしたら、大樹の幸せとはかけ離れているかもしれないけれど。
 隣の健やかな寝顔を見上げて、この幸せが続くことを祈る。
 今年も、この人の隣で笑えますように。


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