再会して復縁した翌週、糸井は糸川の部屋を訪れる約束をしていた。
糸川は大阪に戻ってから、以前住んでいたマンションとは全然違う場所の借り上げ社宅に住んでいる。
会社から徒歩圏内のそのワンルームは、元々は新入社員向けの家具家電つきの物件で、さほど広くはないものの新しくて防音がしっかりしているのがメリットだった。
東京に戻ってからの一年間はとにかく多忙で、ほとんど家と会社との往復だけ。帰宅も遅い時間になることが多く、近隣の生活音が気にならないことは大変ありがたかった。
「寝に帰るだけって生活だったから、広さは必要性感じなかったんだよね」
最寄駅まで糸井を迎えに来てくれた糸川は、自宅までの道を歩きながら、辟易したように管理職一年目の激務を語ってくれた。もしかしたら、その期間は一緒に住んでいたとしても生活のすれ違いに悩んでいたかもしれない。
「ここでーす。ここの二階」
案内されたアパートの階段を上がり、角部屋の一室に招かれる。玄関に入ると、相変わらず糸川は几帳面に脱いだ靴を下駄箱にしまった。
「……お邪魔しまーす」
入ってすぐの左手が洗面と洗濯機置き場、隣に風呂、その向かいがトイレと収納で、部屋の端に申し訳程度のキッチンが設えられている。一口だけのIHクッキングヒーターは使われている様子もなく、外食ばかりの糸川の食生活が察せられた。
「ごめん、もう来客とか全然想定してなくて。適当に、座れるとこ座って。ベッドでも座椅子でも」
部屋の端には収納つきのシングルベッドがあって、床にはラグと座椅子、簡素な座卓、その上にノートパソコンが置かれている。以前の住まいと比べると、随分ミニマイズされた暮らしぶりだ。
「なんか、大阪にいたときの部屋よりもコンパクトですね」
部屋の真ん中に立ったまま、糸井は周りを見回す。
「そうなんだよね。後でいろいろ買い足そうと思ってたんだけど、全然そんな暇なくて。そのまま暮らしてたら、なんかソファーとかなくても全然いけるなって慣れちゃった。まあそもそもそんなに物を置けるほど広くもないしね」
「……広くはないけど壁が薄くないのが取り柄なんでしたっけ」
「あはは、そうそ」
う、と言いかけて糸井に並んだ糸川の口が、唐突に塞がれた。糸井の腕が強く首に巻きつく。
ちゅ、と高いリップ音を立てて、キスを解いた糸井が鼻先を触れ合わせたまま至近距離で糸川を睨む。
「……前は部屋に入ったらすぐキスしてくれてたのに」
拗ねた声に、糸川はその習慣をすっかり忘れていたことを思い出した。
「あ、ごめん……そうだった」
「そういうのも忘れちゃうくらい長く離れてたのが悔しい」
糸井は不服そうに口をひん曲げて、そのまま糸川をベッドに押し倒す。
「今日は俺が動いていいですか?」
見下ろしてくる糸井の滅多にない不機嫌顔と、いつもなら上に乗ってほしいと頼んでも恥じらって難色を示す体位の提案に、一抹の不安を覚えつつ糸川は愛想笑いを浮かべた。
後ろに手をついて上半身を起こした糸川のズボンを寛げ、糸井は熱心に屹立を口で愛撫する。巧みに舌を使い、時には喉奥まで糸川をのみ込んできて、物理的な快感に加えて強烈な視覚的刺激に煽られて、何度も達しそうなのをやり過ごした糸川は眉根を寄せた。
「……っ、糸井くん、もう挿れたい……。僕にも糸井くん触らせて」
懇願するように糸井の額に触れた糸川を上目で見上げて、糸井は見せつけるようにゆっくりと糸川の屹立を舐め上げ、その舌で濡れ光った赤いくちびるをぺろりと舐めた。
「いいよ、挿れて」
頷きに、やっと糸井を解しにかかれるかと思った糸川の前で、糸井は下半身の着衣だけを脱ぎ捨て、自身の背後に手を回した。
「え」
驚く糸川の目の前で糸井は、二度目にお目にかかるアナルプラグを抜き出して見せる。
「……ふふ。この間は途中やめにさせちゃったから、ちゃんと準備してきた」
「えぇ……うそでしょもう……」
「偉いでしょ」
得意気に笑って、糸井は手際よく糸川にゴムを装着する。そしてその上に跨がって、手で支えながら先端をアナルに押し当てた。
少し糸井が腰を落とせば、糸井の胎内に潜り込んでしまう位置。そこで、糸井は少し呼吸を乱しながら呟いた。
「……俺が苦しいって言ったから、糸川さんは途中でやめてくれちゃったけど」
「え?」
ずぶ、と先端が襞をくぐって、糸井が一瞬息を詰める。
「っ……そのこと自体は、大事にしてもらえてるって感じて、嬉しかった。でも俺、あのとき糸川さんとしたかったよ」
ずずっと、糸井が腰を落とすにつれて、ローションが仕込まれたとろとろの内壁を糸川の砲身が進んでいく。ほどなく糸井は、糸川の上にぺたりと座り込んだ。
「言えばよかったんだよね……苦しいけど、それより中までしてほしいって」
「糸井くん……」
「まだ伝えるの下手くそだ……もうちょっと上手くなるから、長い目で見てて」
苦笑いで糸川に軽く口づけて、糸井はゆっくりと腰を浮かせ、またぺたりと座り込む。まどろっこしいくらいのゆっくりとした抽挿なのに、糸川の遂情の欲求は矢も盾もたまらないほどに押し上げられた。
「っ……待って待って待って、ストップ、一旦ストップ」
慌てて糸井の腰を抱いて止めた糸川を、糸井は少し不安げに見下ろす。
「……? 良くない?」
「違う、逆。もうめっちゃいきそう」
「だったら、いっていいのに」
「いや、ちょっと待って、も少し浸らせてほしいのよ。今感動してるの僕」
ぎゅう、と糸井の痩身を抱いて、その胸元で糸川は大きく息をついた。
本当に、糸井は変わろうとしてくれている。随分本音を話してくれるようになったと思っていたけれど、まだもう一段、きちんと伝えようとしてくれている。
それは以前の反省を体現してくれているということで、ひいては糸川との良好な関係継続のための努力だ。
離れていた時間は、こうなってみれば糸川だって悔しい。でも離れていたからこそ、やっと見せられるようになった部分も確かにあるのだと思える。
「……ねえ、後ろに手をついて」
糸川に腰を支えられながら乞われ、言われるままに糸井は後ろに両手を回す。けれど糸川の上に座った糸井の手の位置とベッドまでは意外と高低差があって、ついてみると糸井の上体はかなり後ろに傾き、自然と両膝が立って意図せずM字開脚状態になってしまってどっと羞恥が沸き立った。
「わぁ、眼福」
「ちょ、これ恥ずかしいっ!」
「なんで。すごくかわいい。そのまま動いてよ。今日は糸井くんが動いてくれるんでしょう?」
目を細めて意地悪な笑みを浮かべる糸川の上で、糸井はきゅっと目を瞑る。そして観念して、律動を始めた。
「んぅ……う……、あ……」
上体を反らせた態勢で、腰を浮かせては落とす。中を穿つ糸川の砲身をいいところに当てるよう、糸井は淫蕩に腰をくねらせ、当たる度に小さな嬌声を上げる。
腰を振る度にTシャツの裾に隠れた糸井の屹立がふるふると揺れ、カーキの布地を押し上げた先端に濃い染みができていく。その揺れが切迫したように速まっていくのに、糸井の得ている快感が見てとれて、糸川は自身の極まりをくちびるを噛んで耐えた。
やがて糸井の腰つきのリズムが崩れ、内側が痙攣して糸川を締め付ける。
「あ、もうっ……」
大きく頤を反らした糸井が、びくっと震えて動きを止める。その瞬間、糸井の放った精が服と二人の下腹を濡らした。少し遅れて、糸井の上半身を抱き起こしてしがみつくように糸川も達する。
服越しにも伝わる、互いの熱。匂い。声。
離れていた間も互いにずっとそれを求めていたのだと、二人は痛切に思い知った。
もう二度と離れないと、心に決める。
ぎゅっと強く抱き合って息を整え、鼓動が落ち着いた頃にひとつ吐息をついて、糸川は糸井を抱えたまま押し倒すようにころんと転がった。
「糸井くん。……次は僕の番でいいですか?」
二度目をねだる声に、糸井は笑う。けれどその瞳は、少し潤んで見えた。
「ふふ。いいですよ」
頬に触れてきた糸井のてのひらに、糸川はそっとくちづける。
濡らしてしまった服を脱ぎ去って、二人は再びベッドの上に重なった。
<END>